脂質異常症とは?

動脈硬化を防ぎ、心臓・脳を守るために

動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版(JAS2022)準拠

1.脂質異常症とはどんな病気?

脂質異常症とは、血液中の脂質(コレステロールや中性脂肪)の値が正常範囲を外れた状態です。かつては「高脂血症」とも呼ばれていましたが、HDLコレステロール(善玉)が低い場合も含めて「脂質異常症」と呼ぶようになりました。

自覚症状がほとんどなく、気づかないうちに血管壁に脂質が蓄積して動脈硬化を進行させます。放置すると心筋梗塞・脳卒中・末梢動脈疾患などの重大な病気を引き起こすリスクが高まります。日本では推計約2,200万人が脂質異常症とされており、生活習慣病の中でも特に注意が必要な疾患です。

脂質異常症は「沈黙の病気」です。症状がないからこそ、健診での定期的な血液検査が早期発見の鍵となります。LDLコレステロールが高い状態が続くだけで、着実に動脈硬化は進行しています。

2.診断基準(JAS2022)

以下のいずれかに当てはまる場合に脂質異常症と診断されます。空腹時採血(10時間以上絶食後)の値が基本ですが、中性脂肪は非空腹時(随時)の基準値も設定されています。

項目 診断基準値 通称・意味
LDLコレステロール
(LDL-C)
140mg/dL 以上 高LDLコレステロール血症
(悪玉が多い)
HDLコレステロール
(HDL-C)
40mg/dL 未満 低HDLコレステロール血症
(善玉が少ない)
中性脂肪
(トリグリセライド:TG)
空腹時 150mg/dL 以上
または随時 175mg/dL 以上
高トリグリセライド血症
(JAS2022で随時基準値を新設)
Non-HDLコレステロール 170mg/dL 以上 高non-HDLコレステロール血症
(総コレステロール-HDL-C)

Non-HDLコレステロールは食事の影響を受けにくく、動脈硬化リスクをより正確に反映する指標としてJAS2022で重視されています。

3.脂質の種類と働き

種類 体内での働き 多い・少ないとどうなるか
LDLコレステロール
(悪玉コレステロール)
肝臓から全身の細胞にコレステロールを運ぶ 多すぎると血管壁に蓄積し動脈硬化の原因になる。
特に酸化LDLが危険
HDLコレステロール
(善玉コレステロール)
余分なコレステロールを回収して肝臓へ戻す 少ないと動脈硬化が進みやすい。
「多いほど良い」唯一の脂質
中性脂肪(TG) エネルギーの貯蔵・運搬を担う 多すぎると動脈硬化・急性膵炎のリスクが高まる
Non-HDLコレステロール 動脈硬化を引き起こす脂質の合計指標
(総コレステロール-HDL-C)
LDL-Cより食事の影響を受けにくくリスク評価に有用

4.リスク区分別 脂質管理目標値(JAS2022)

JAS2022では、まず「すでに動脈硬化性疾患を発症したことがあるか(二次予防)」と「まだ発症していないか(一次予防)」で大きく分け、さらに一次予防は合併疾患と久山町研究スコアによって低・中・高の3つのリスク群に分類します。

【ステップ1】二次予防か一次予防かを確認する

区分 該当する方
二次予防 冠動脈疾患(心筋梗塞・狭心症など)
またはアテローム血栓性脳梗塞(頭蓋内外動脈の50%以上の狭窄、
または弓部大動脈粥腫4mm以上)の既往がある方
一次予防 上記の動脈硬化性疾患の既往がない方
(以下のステップ2でさらにリスク分類します)

【ステップ2】一次予防の方はリスクを分類する

リスク群 判定基準
高リスク群 以下のいずれかに該当する方
  • 糖尿病・慢性腎臓病(CKD)・末梢動脈疾患(PAD)のいずれか1つでもある
  • 久山町研究スコアで動脈硬化性疾患の10年絶対リスクが10%以上
中リスク群 高リスク疾患(糖尿病・CKD・PAD)がなく、久山町研究スコアで動脈硬化性疾患の10年絶対リスクが2〜10%未満の方
低リスク群 高リスク疾患(糖尿病・CKD・PAD)がなく、久山町研究スコアで動脈硬化性疾患の10年絶対リスクが2%未満の方

【ステップ3】リスク区分に応じた脂質管理目標値

リスク区分 LDL-C 目標値 Non-HDL-C 目標値 TG 目標値 HDL-C 目標値
二次予防
(冠動脈疾患または アテローム血栓性脳梗塞の既)
※下記4病態のいずれかを合併する場合はLDL-C 70mg/dL未満も考慮
100mg/dL 未満 130mg/dL 未満 150mg/dL 未満 40mg/dL 以上
一次予防 高リスク群
糖尿病・CKD・PADのいずれかあり、または久山町スコアで10年リスク10%以上
(糖尿病で合併症・喫煙ありの場合はLDL-C 100mg/dL未満も考慮)
120mg/dL 未満 150mg/dL 未満 150mg/dL 未満 40mg/dL 以上
一次予防 中リスク群
久山町スコアで 10年絶対リスク2〜10%未満
140mg/dL 未満 170mg/dL 未満 150mg/dL 未満 40mg/dL 以上
一次予防 低リスク群
久山町スコアで 10年絶対リスク2%未満
160mg/dL 未満 190mg/dL 未満 150mg/dL 未満 40mg/dL 以上

※二次予防で以下の4病態のいずれかを合併する場合、LDL-C 70mg/dL未満も考慮:「急性冠症候群」「家族性高コレステロール血症」「糖尿病」「冠動脈疾患とアテローム血栓性脳梗塞の合併」

※一次予防における管理目標達成の手段は非薬物療法が基本。ただしいずれの区分でもLDL-Cが180mg/dL以上の場合は薬物治療を考慮する。

※久山町研究スコアは担当医が計算します。スコアの結果に基づいてリスク区分を一緒に確認しましょう。

5.生活習慣の改善(治療の基本)

脂質異常症の治療は、まず生活習慣の改善から始めます。薬を飲んでいる方も生活習慣の改善を継続することで、より少ない薬で管理できるようになります。

項目 具体的な内容
食事 (LDL対策) 飽和脂肪酸(バター・ラード・肉の脂身)を控える。
不飽和脂肪酸(青魚・オリーブオイル)を積極的に摂る。
食物繊維(野菜・海藻・きのこ)を増やす。
コレステロール摂取は1日200mg未満を目安に。
食事 (中性脂肪対策) 糖質・アルコールを控える。甘い飲み物・お菓子・白米の過剰摂取を避ける。
果糖を多く含む清涼飲料水に注意。
飲酒は男性20g以下・女性10g以下(1日あたり)。
運動 有酸素運動(ウォーキング・水泳・自転車)を毎日30分以上または週150〜180分を目標に。
LDL-Cを下げHDL-Cを上げる。
筋力トレーニングを週2〜3回組み合わせるとより効果的。
禁煙 喫煙はHDL-Cを低下させ動脈硬化を強力に促進する。
禁煙外来の積極的な活用を。
適正体重の維持 BMI 25未満を目標に。
内臓脂肪の蓄積がLDL-C上昇・HDL-C低下・TG上昇を同時に引き起こす。

6.薬物療法

生活習慣の改善だけで目標値に達しない場合、または心血管リスクが高い場合は薬物療法を開始します。

薬の種類 主な効果 主に改善する値 代表的な薬
スタチン系 肝臓でのコレステロール合成を阻害。
最も強力なLDL低下薬
LDL-C↓↓ Non-HDL-C↓ ロスバスタチン
アトルバスタチン
エゼチミブ 腸管からのコレステロール吸収を抑制。
スタチンとの併用で相乗効果
LDL-C↓ ゼチーア
PCSK9阻害薬(注射薬) LDL受容体を増やし血中LDLを強力に除去。
二次予防の高リスク例に
LDL-C↓↓↓ エボロクマブ
アリロクマブ
フィブラート系 中性脂肪を強力に下げHDLを上げる TG↓↓ HDL-C↑ フェノフィブラート
オメガ3脂肪酸製剤 中性脂肪を下げる(青魚の油の有効成分) TG↓ ロトリガ
エパデール

薬は自己判断で中止しないでください。LDL値が正常化しても薬の効果で下がっている場合がほとんどです。服薬継続が動脈硬化の進行抑制・心筋梗塞・脳卒中の予防につながります。

7.日常生活での注意点

  • 定期的な血液検査を受ける
    自覚症状がないため、3〜6ヶ月ごとの血液検査で脂質値の変化を確認することが重要です。
  • 家族歴を確認する
    家族性高コレステロール血症(FH)は遺伝する病気です。家族に若くして心筋梗塞を起こした方がいる場合は早めにご相談ください。
  • 他の生活習慣病を合わせて管理する
    糖尿病・高血圧・肥満を合併すると動脈硬化のリスクが相乗的に高まります。総合的な管理が重要です。
  • 健診結果を放置しない
    「少し高いだけ」と思わず、まず受診してリスク評価をしてもらいましょう。

受診のご案内

「健診でコレステロールが高いと言われた」「中性脂肪の値が気になる」「薬を飲んでいるが目標値に届いていない」という方は、お気軽にご相談ください。動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022(JAS2022)に基づき、あなたのリスク区分と目標値を一緒に確認し、心筋梗塞・脳卒中を予防しましょう。